(指揮者/高橋利幸HP『徒然草』2012.5.8*四百八十九段*より)


 夜更けになったが、郵便物を投函しに外に出た。新緑の木々の匂いがした。久しぶりの匂いだと思った。冬の匂いとは違う生き生きとした活気を感じさせる匂いだ。昼間と違い色が見えないからか、人が少なく音も少ないからか、匂いと気温で春真っただ中だと感じた。それでも、数日前には大きな竜巻が発生し、死傷者を出している。
 日常の表と裏、感じられることや感じられないこと、ごくわずかのことしか自分では感じることができないのだとふと思った。

 夕方、靴を買いに出た。履き心地の良いウオーキングシューズがあった。隣の棚を見ると、幼児用のかわいいらしい靴が陳列されていた。あまりに小さく、あまりにかわいい。わが子の幼児のころを思い出した。時の経過の早さを思った。

 6月15日に合唱の指揮をする。メインに混声合唱組曲「きけ わだつみのこえ」を取り上げる。初演から42年が経っている。学徒出陣で戦場に散った学生の手記をもとにしている。
 本も出版されている。学生で学問にはげむべき若者を戦場に送る狂気の源は何なのかと思う。
 この事実は、今では風化しつつあるのか。広島、長崎の原爆投下の惨状も、いつの間にか遠くに感じてしまっているのか。
 何かの犠牲の上に現在の日本の繁栄が(表面的であったとしても)あるのだという思いは持ち続けなければならない。

 私の年代はもういいのだ。しかし、若者は将来や今に夢をもって生き生きと生きてほしいし、小さなこどもたちにはすくすくと育ってほしい。
 弱肉強食だけが通用するのでは、人が社会をつくっている意味がないだろう。獣と違う頭脳や思考や精神があるのが人間だ。国が、つまり社会が、あまりに長く個人に我慢を強いるのには限界があるのだと思う。
 フランス、ギリシャの選挙では、現状を容認するのが無理だという意思表示がされた。若者の失業率が二桁になれば心もすさぶ。その反面、富裕層は益々富むのでは誰もが納得できないだろう。

 「きけ わだつみのこえ」は6月15日?午後7時の開演だ。ルーテル市ヶ谷ホールに足を運んでくださればうれしい限りだ。





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ねむの花 第12回演奏会 「愛と心の歌 〜忘れられない名曲シリーズVol.8〜

指揮者/高橋利幸HP

きけ わだつみのこえ