(指揮者/高橋利幸HP 『徒然草』 2008.2.15*五十段* より)

 磯部 俶・・・最近の合唱の演奏会案内を見ていてもあまり目にすることがなくなってしまった。合唱曲の名曲を数多く作った。詩の選び方が特徴的だ。室生犀星、三好達治、北原白秋などの詩に曲を付けた曲は抒情的で繊細で、代表作ともいえる「時無草」や「貝殻」や「もくせい」を聴くと、まさに詩と音楽の融合の極みだ。それに一度聴いたら忘れられない旋律が必ず出てくる。心が疲れた時にこれらの詩だけを読んでみる。心の渇きがいやされる。みずみずしい心を取り戻す。それからメロディーを思い浮かべる。

 三好達治の「貝殻」は字数でいうと40字くらいの詩だ。行にして6行。わずかな字数の中にどれくらいの思いが膨らむか。「昨夜(よべ)」「ひと夜」「やさしく」「あまい」「死の歌を」「うたっていた」「海」これが詩の前半だ。後半は「しかして」「ここに残されし」「今朝の砂上の」「これら貝殻」・・・これがすべてだ。この短い詩が、まるで小宇宙のような広がりを持って心に響くのは私だけだろうか。作曲家・磯部 俶はどんなふうに触発されて作曲に至ったのか、こころをのぞいてみたい。この短い詩と短い曲を聴いていない人にはぜひ聴いてほしい。長い言葉と長い曲が合唱曲だともし思っていたとしたら、それは大きな間違いだと気付くだろう。

 磯部 俶はこれとは反対の比較的長い、情景や風景をそのまま文字にしたような詩にも曲を書いている。「噴水のある風景」や「朝の賛歌」「ゆりかご」、合唱組曲「虹」などがそうだ。音楽評論家の村田武雄氏が、女学生と卒業したOLにたとえてライナーノートに書いていたが、わかりやすいたとえではある。凝縮された曲というよりは、物語風に曲を進めていくという印象だ。作品としては当然組曲の形になる。


 それでも、その中の一曲が強烈に光を放つものがあり、一回聴いただけで虜になる。作曲家である彼は合唱指揮もよくしていた。共立女子大学で指揮をした演奏会を聴いたとき、合唱組曲「虹」の終曲があまりに印象的だった。―エピローグ 雪(挽歌にかえて)―だ。付点二分音符に八つや十のことばをいれる。

 「しずかにつつんでいく」・・・これを同じ音のなかで歌い、かつ輪唱のように繰り返される。何と言う拡がりだろう。アンコールでまたこの曲が歌われた。すでにない共立講堂のホールとともに忘れられない思い出だ。




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ねむの花 第4回演奏会 「邦人作曲家四人展」

指揮者/高橋利幸HP

合唱組曲の指揮