(指揮者/高橋利幸HP 『徒然草』 2008.5.5*百三段* より)

 女声合唱団ねむの花の演奏会まで五日となった。10日の第3ステージでは、三善晃氏の女声合唱のための「三つの抒情」を取り上げる。言うまでもなく、作曲者の代表的な合唱曲の一つだと誰もが認める作品だ。立原道造の二つの詩、中原中也の一つの詩に三善晃が曲を書いた。

 私は、曲を聴く前に「或る風に寄せて」(暁と夕の詩より)と「北の海」「ふるさとの夜に寄す」の三つの詩を読んで心が震えた。何十年も前のことだ。しかし鮮明に覚えている。それから曲を聴いた時の鳥肌が立つような感動…。この感覚は今でも変わることがない。三曲ともピアノの前奏が始まった時に心が捉えられてしまう。最初の一音で、といってもいいだろう。天才のなせる技とはこういうものかとも思う。それぞれの曲の最初の一音を聴いただけで心が吸い込まれるのだ。

 おまえのことでいっぱいだった 西風よ・・・

こんなふうに思えることが現実にあるのか…、西風に人の思いを託しての「詩」だ。

 おまえは 西風よ みんななくしてしまった と・・・

「いっぱい」だったものを最後には「みんな なくす」のだ。この詩を読めば詩人の並々ならないあふれる気持ちが伝わって来ざるをえない。私は指揮をしていてこの部分では、私自身の気持ちが詩のひとつひとつの言葉と同化する。「さびしい思いを噛みながら」「おぼえていた おののきも ふるえも」「夕暮れが夜に変わるたび 雲は死ぬ」

 二曲目の荒涼とした「北の海」をはさんで、詩の題名が「・・・寄せて」「・・・寄す」と風と夜に「寄せて」の詩となっている。風はすべてをなくし、悲しみ、憎しみを遠くあれと歌う終わりの部分は詩人自身の諦念だろうか。

 ピアニストについて少しふれたい。この作品では特に、研ぎ澄まされたダイヤのようなひとつひとつの音を、ピアノという楽器で表現しなければならない。それにこたえられるピアニストが要求される。その求める音を表現できる技術と感覚が必要だ。このステージでのピアノではまずクリスタルのような音が必要なのだ。そして、書かれた音符は、もしかしたらピアノを聴くだけでもこの曲は成立してしまうかもしれないような圧倒的な説得力をもつ。それを鑑みての人選だ。音をまず聴いてほしい。この若いピアニストの将来を期待してもらえれば幸いだ。


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ねむの花 第4回演奏会 「邦人作曲家四人展」
心の歌・歌のこころ 「邦人作曲家四人展」

指揮者/高橋利幸HP


三つの抒情