(指揮者/高橋利幸HP『徒然草』2011.5.1*四百六十六段*より)


 夏の夕暮れのひと時を、邦人作曲家二人の名曲で楽しんでいただきたいのが7月3日のコンサートだ。

 2011年3月11日、この日を日本人の誰もが忘れないだろう。忘れてはいけない日だ。日本の太平洋戦争後最大の死者を数えた東日本大震災・・・関東大震災、阪神淡路大震災と、大きな震災を被ってきた経験を超える津波の巨大な力、それに加わることの原子力発電所からの放射能汚染の恐怖、直接の被災者の苦しみと同様の苦しみとは言えないまでも、共感から来る何とも言えない無力感と連発する余震に、心が折れそうな時間を経験している。

 三ヵ月を経過した中でのこのコンサートが、今までのコンサートと同じ「忘れられない名曲シリーズ」になりうるのか、それは誰にもわからない。

 作曲家・湯山 昭の合唱組曲『愛の河』は、1970年代から80年代にかけて日本の合唱界を席捲したとも言える名曲だ。4年の時をかけての作曲とされる。「相聞」「華燭」「誕生」、三つの詩からなるこの曲の出版にあたり、作曲者は「今は愛が不毛の時代かもしれない。そうだからこそ、和田徹三氏の燃えるような青春の讃歌『愛の河』の世界に、しばし身を浸していただきたいと思うのである」と記している。愛が不毛の時代は、それからもずっと変わらない・・・37年前の危惧は、今でもそうだと思うのは私だけだろうか。社会が、科学が、生活レベルが上がっても愛が不毛とは、物の豊かさに溺れた私たちが自ら選んだ道なのかもしれない。

 北海道の大自然を背景に、過ぎし青春時代を描いた田園詩といえるこの組曲の後には、同じコンビでの「祝婚歌」を歌う。愛の河に続く祝婚歌、心がなごみ、笑みがこぼれるだろう。

 和田徹三は中田喜直とのコンビで「北の歌」の作詞もしている。合唱組曲『北の歌』は来春のニューイヤーコンサートで取り上げる予定だ。

 今回は、三浦真理さんの編曲による『歌いつぐ日本のうた』曲集からの数曲を取り上げる。三浦真理さんは、器楽、合唱を問わず多くの作品を世に送り出している。その余りある才能を駆使しての『歌いつぐ日本のうた・四季を歌う』の中からの抜粋だ。誰もがご存じの懐かしい旋律が、華麗な編曲で変貌する。この編曲の妙を味わっていただきたい。

 “ねむの花”の公演は、団員のための公演ではない。忘れられない邦人作曲家の名曲をとおして、まずはお客様に合唱音楽の魅力を味わってほしいことが目標だ。歌う人の自己満足のためにプログラムを組む傾向にあるのが合唱音楽の世界だが、そのアンチテーゼとして、日本の合唱曲の古典を定着させること、お客様の心を癒やすことのできるプログラムビルディングをすること、これに焦点を絞る。一つのステージを独唱の舞台とすることもその表れだ。笹本真紀さんのステージがそれに当たる。声とピアノがコラボする世界に誘いたい。ピアニストの小川万里江さんは、伴奏の域を超えてそれに応えてくれる。

 最初の文に戻ろう。悲惨の極みとも言える大地震、津波、原発事故、の三ヵ月後のこのコンサート、歌う団員とピアニスト、ソリスト、指揮者にとって、ご来場のお客様との「邂逅」のひと時だ。かけがえのない時間を共有したいとの思いがこみ上げてくる。





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ねむの花 第10回演奏会 「EVENING CONCERT 愛と心の歌〜忘れられない名曲シリーズVol.6〜

指揮者/高橋利幸HP

二人の作曲家のイヴニングコンサート